「コク」は何色? 第1回
「濃厚」から「コク」へ
「最近好む味は何ですか?」
こんな調査がよく行われている。ちょっとしたテレビネタになりそうなテーマですが、実はこの「コク」の存在、最近はその影響たるや非常に大きく、「コク」を反映した現象が多方面にあらわれています。
テレビCM、店頭に並ぶ製品に飲食店。このアンケートの結果を参考にしながらこうしたものを観察していると、いろんな場面で「コク」が叫ばれ、その熱狂振り、集中振りに驚かされるます。
まずは、毎年行われている「好む味」の結果を見てみます。最初にご紹介するのは3年前の2013年に行われた「好みの味に関する一般調査」。この調査では「今の好み」だけでなく同時に「以前好んでいた味」についても聞いています。
※「好みの味に関する一般調査」(対象:東・名・阪の成人男女600名)
これまで多くの人に好まれていた「濃厚な味・濃い味」から「コク・旨み・深み」に見事に移行しているのが分かりますね。実はこの傾向は、これ以降つづいていて、様々に行われている調査でも、「コク・旨み・深み」は変わらない「人気ナンバーワン」の味になっています。そういえばコッテリよりも、最近は奥行きのある、奥深い味を前面に出した食べ物が注目されることが多いようにも思います。
この味の大きな変換期となった2012年。「濃い」から「コク」に好みが移った背景に、いったいどんな出来事があったのでしょう。
一つには2012年にピークだった「濃い味」に対する反動で、飽きや、健康に対する懸念から、濃い味を好んでいた人々が「コク』に移ってきたというもの。「コク」は「濃い味」とは反対のイメージで、作り手のこだわりや繊細さ、やさしさが感じられる味です。濃い味も「こだわり」や手間のイメージはありますが、繊細さ、やさしさといった要素はあまり感じさせません。その点「コク」は作る過程で手間(付加価値)もかかり、また、そもそも高い技術・経験が必要なイメージもあります。つまり「本物」への回帰もそこにはあるでしょう。
「コク」は何色をしている?
さて、本サイトの目的は「色彩」の面から様々なことを観察、分析していくことですが、この味の好みの変化は、実に興味深い変化を観察することができます。簡単に言ってしまうと、
「コクはいったい何色をしているのか」
という点です。食料品において「われこそがコクを表す商品(色)である」ということが言えればヒット商品になれる、という状況では、特に商品のパッケージにおいて、みんながこれこそ!と思うコクを感じさせるデザイン、特に色をつけることが非常に重要なこととなります。
例えば「ビール」「シチュー」「ソース」。コクを最大の売り!にしている製品は多くありますが、中でも多種多様な戦いを繰り広げているのが、中でも熾烈な戦いを繰り広げているのが「缶コーヒー」の世界です。
まずは、「コク」と銘打った製品を眺めてみましょう。
ある製品は、金色に輝き、また、ある製品はコーヒー豆を感じさせる茶色。と思えば今までも数多く見てきた黒はあるし、プレミアム表現の定番となったロイヤルブルー、果ては赤やクリーミーな白、微妙なブルーグリーンまで。まるでコーヒーパッケージの色見本のようになっています。
まさに色の戦い。しかし注目の売りキーワード「コク」については、どうも決定力が欠けているような気もします。
食べ物、飲み物は「らしさ」がないと売れない
実は、色彩から見た売れる商品の条件の一つに「らしさ」の表現というものがあります。
簡単に言ってしまえば製品パッケージは缶のデザインに「らしい」色が使われていないと売れない、というもです。例えば、
辛いものは辛さを感じさせる色。
甘いものは甘さを感じさせる色。
濃厚なものは濃厚さを感じさせる色。
これは味覚色といわれるもので、上の例でいいますと、
辛い=赤と黒(中辛=赤と茶) 甘い→黄色・ピンク 濃厚な→色を濃くする
といった定番の色や手法が存在しています。
つまり赤と黒を中心に置いてデザインを展開すれば、大多数の方に一瞬で「辛い」製品だということが伝わり、辛さを求めているお客さんにきちんとアピールできる事になります。例えばこんなパッケージ。
私などこのパッケージをみただけで、食べたわけでもないのに、じんわりと汗が出てきます。素晴らしい色の効果です。
では「コク」を売りたい缶コーヒーのジャンルでは、どうしてこんなにも多彩な色の表現になってしまうのでしょうか。
その理由は、コクの味覚色が定着していないことによります。もちろん味としての「コク」の世界は日本において、特に和食でお馴染みの存在です。しかし、その表現が辛い、甘いのようにシンプルではなく、素材にしても色々なものが複雑に交じり合って、その拡がりや余韻、奥深さが再現されています。
また実際に「コク」のある食べ物として私たちの目の前に出される時も、いろいろな色をしています。基本的には野菜などの素材の色にわずかに「コク」が付加された色というのでしょうか。つまり素材によって「コク」の色はいくらでも変してしまいます。
つまり色で言えば、いくつもの多くの色が重なり合って、なんとも微秒な色となっている、それが「コク」でもあります。ですからそれを分かりやすい色として表現する場合の味覚色が実はまだ決まっていないのです。
これは逆に言えば凄いチャンスでもあります。
その昔、キリンがこげ茶のラベル(ラガービール)で苦みを表現して長く君臨し、スーパードライが銀色でキレという言葉をわがものにし、業界ナンバーワンに躍り出たように、コクはこの色!をしている、という認識を製品を通して広く認識させることができたとしたら。たぶんその製品は、人々がコクを好む限りナンバーワン製品であり続けることができるでしょう。
(第2回 『コクの代表「出汁」は赤?』に続きます)
「最近好む味は何ですか?」
こんな調査がよく行われている。ちょっとしたテレビネタになりそうなテーマですが、実はこの「コク」の存在、最近はその影響たるや非常に大きく、「コク」を反映した現象が多方面にあらわれています。
テレビCM、店頭に並ぶ製品に飲食店。このアンケートの結果を参考にしながらこうしたものを観察していると、いろんな場面で「コク」が叫ばれ、その熱狂振り、集中振りに驚かされるます。
まずは、毎年行われている「好む味」の結果を見てみます。最初にご紹介するのは3年前の2013年に行われた「好みの味に関する一般調査」。この調査では「今の好み」だけでなく同時に「以前好んでいた味」についても聞いています。
※「好みの味に関する一般調査」(対象:東・名・阪の成人男女600名)
これまで多くの人に好まれていた「濃厚な味・濃い味」から「コク・旨み・深み」に見事に移行しているのが分かりますね。実はこの傾向は、これ以降つづいていて、様々に行われている調査でも、「コク・旨み・深み」は変わらない「人気ナンバーワン」の味になっています。そういえばコッテリよりも、最近は奥行きのある、奥深い味を前面に出した食べ物が注目されることが多いようにも思います。
この味の大きな変換期となった2012年。「濃い」から「コク」に好みが移った背景に、いったいどんな出来事があったのでしょう。
一つには2012年にピークだった「濃い味」に対する反動で、飽きや、健康に対する懸念から、濃い味を好んでいた人々が「コク』に移ってきたというもの。「コク」は「濃い味」とは反対のイメージで、作り手のこだわりや繊細さ、やさしさが感じられる味です。濃い味も「こだわり」や手間のイメージはありますが、繊細さ、やさしさといった要素はあまり感じさせません。その点「コク」は作る過程で手間(付加価値)もかかり、また、そもそも高い技術・経験が必要なイメージもあります。つまり「本物」への回帰もそこにはあるでしょう。
「コク」は何色をしている?
さて、本サイトの目的は「色彩」の面から様々なことを観察、分析していくことですが、この味の好みの変化は、実に興味深い変化を観察することができます。簡単に言ってしまうと、
「コクはいったい何色をしているのか」
という点です。食料品において「われこそがコクを表す商品(色)である」ということが言えればヒット商品になれる、という状況では、特に商品のパッケージにおいて、みんながこれこそ!と思うコクを感じさせるデザイン、特に色をつけることが非常に重要なこととなります。
例えば「ビール」「シチュー」「ソース」。コクを最大の売り!にしている製品は多くありますが、中でも多種多様な戦いを繰り広げているのが、中でも熾烈な戦いを繰り広げているのが「缶コーヒー」の世界です。
まずは、「コク」と銘打った製品を眺めてみましょう。
ある製品は、金色に輝き、また、ある製品はコーヒー豆を感じさせる茶色。と思えば今までも数多く見てきた黒はあるし、プレミアム表現の定番となったロイヤルブルー、果ては赤やクリーミーな白、微妙なブルーグリーンまで。まるでコーヒーパッケージの色見本のようになっています。
まさに色の戦い。しかし注目の売りキーワード「コク」については、どうも決定力が欠けているような気もします。
食べ物、飲み物は「らしさ」がないと売れない
実は、色彩から見た売れる商品の条件の一つに「らしさ」の表現というものがあります。
簡単に言ってしまえば製品パッケージは缶のデザインに「らしい」色が使われていないと売れない、というもです。例えば、
辛いものは辛さを感じさせる色。
甘いものは甘さを感じさせる色。
濃厚なものは濃厚さを感じさせる色。
これは味覚色といわれるもので、上の例でいいますと、
辛い=赤と黒(中辛=赤と茶) 甘い→黄色・ピンク 濃厚な→色を濃くする
といった定番の色や手法が存在しています。
つまり赤と黒を中心に置いてデザインを展開すれば、大多数の方に一瞬で「辛い」製品だということが伝わり、辛さを求めているお客さんにきちんとアピールできる事になります。例えばこんなパッケージ。
私などこのパッケージをみただけで、食べたわけでもないのに、じんわりと汗が出てきます。素晴らしい色の効果です。
では「コク」を売りたい缶コーヒーのジャンルでは、どうしてこんなにも多彩な色の表現になってしまうのでしょうか。
その理由は、コクの味覚色が定着していないことによります。もちろん味としての「コク」の世界は日本において、特に和食でお馴染みの存在です。しかし、その表現が辛い、甘いのようにシンプルではなく、素材にしても色々なものが複雑に交じり合って、その拡がりや余韻、奥深さが再現されています。
また実際に「コク」のある食べ物として私たちの目の前に出される時も、いろいろな色をしています。基本的には野菜などの素材の色にわずかに「コク」が付加された色というのでしょうか。つまり素材によって「コク」の色はいくらでも変してしまいます。
つまり色で言えば、いくつもの多くの色が重なり合って、なんとも微秒な色となっている、それが「コク」でもあります。ですからそれを分かりやすい色として表現する場合の味覚色が実はまだ決まっていないのです。
これは逆に言えば凄いチャンスでもあります。
その昔、キリンがこげ茶のラベル(ラガービール)で苦みを表現して長く君臨し、スーパードライが銀色でキレという言葉をわがものにし、業界ナンバーワンに躍り出たように、コクはこの色!をしている、という認識を製品を通して広く認識させることができたとしたら。たぶんその製品は、人々がコクを好む限りナンバーワン製品であり続けることができるでしょう。
(第2回 『コクの代表「出汁」は赤?』に続きます)
2016-02-25 17:32
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